| 少年|今まで、いろんな事があったよな。   | イカ|いかにも。   | 少年|お前がやってきてから、にぎやかになったよ。   |怒りっぱなしの父さんも、穏やかになったし。   |母さんも小言を言わなくなった。   |姉ちゃんもなんだか優しくなって、笑顔が増えた気がする。   |じいちゃんが死んでも、明るい心でいられるのは、お前のおかげかな。   | イカ|いかにも。   | 少年|でも・・・駄目なんだ。もう・・・無理なんだ。   | イカ|いかにして?   | 少年|あの小屋だって、狭くなってしまった。餌代だって、厳しいし。   |僕だってこれから大学目指してるのに。   |とにかく、これ以上は・・・もう・・・無理なんだ。   |父さんも、母さんも、ご近所さんだって、お前のことよく思ってない。   |昔とはもう・・・違うんだよ。   | イカ|しかし、隣の高橋さんのお宅にも、ペットはござろう。   |拙者だけとは、コレいかなるものか。   | 少年|高橋さんとはまた違う問題だよ。   | イカ|いかにして?   | 少年|高橋さんのところのペットは・・・犬だもん。   | イカ|それがいかがした。   | 少年|だってお前・・・イカじゃん。   | イカ|それがいかがした!   | 少年|何でこんなにデカくなっちゃうのさ!   | イカ|仕方がないじゃないか!   | 少年|何が!   | イカ|人間の食事がデリシャスだからじゃないか!   | 少年|侍言葉どこ言ったんだよ。   | イカ|仕方がないでござる。いか。   | 少年|・・・とにかくもう飼えないんだ。   |じいちゃんが海の事故で死んで、いろいろバタついてるし。   |高橋さんの犬も、お前の事怖がってるんだって。   | イカ|・・・いかにもなセリフを吐いておるが、   |おぬし、ただ単に飽きただけではないか?   | 少年|飽きてないよ! 飽きるってんならもっと早い段階で飽きてるよ!   |飼いたての頃とかさ! 水槽眺めてても、ゆらぁ〜って浮いてるだけでさ。   | イカ|イカだもん! 仕方がないじゃん!   | 少年|侍言葉どこ言ったんだよ!   | イカ|仕方がないでござる! いか。   | 少年|それがこんな生意気なイカに育ちやがって。   |・・・生意気なイカ?   |この・・・生イカ。   | イカ|生イカだよ!   | 少年|出身はどこだ! ジャマイカか!   |ジャマイカ生イカなのかお前は。   | イカ|早口言葉じゃないか。   | 少年|ジャマイカ生イカ、   |ジャマイカ生イカ、   |ジャマイカ生イカ。   | イカ|おぉ。   | 少年|とにかく、僕はお前をここに置いて帰る。   | イカ|いかん!   | 少年|何で!   | イカ|いかなる理由があろうと、拙者は一緒に暮らす。   | 少年|やだ!   | イカ|いかん!   | 少年|無理!   | イカ|いかん!   | 少年|駄目! 帰る(去ろうとする)!   | イカ|いかないで!   | 少年|・・・。   | イカ|いかないでくれないか。   |イカ一人じゃ何も出来ん。   | 少年|・・・一人じゃないさ。   | イカ|・・・!   | 少年|「一杯」だろ! (去ろうとする)   | イカ|いかん!   | 少年|やだ!   | イカ|いかん!   | 少年|無理!   | イカ|いかん!   | 少年|駄目! 帰る!   | イカ|いやん!   | 少年|・・・? ・・・い、   | イカ|・・・いかん。   | 少年|ごねんなよ。イカの癖に。   | イカ|イカの癖にとはいかがなものか。   |地団駄踏むぞ。十本で。   | 少年|威嚇かよ。   | イカ|お。   | 少年|・・・帰る。   | イカ|いかん! ・・・怒るぞ!   | 少年|怒ればいいじゃん。   | イカ|怒った後、記者会見しないといかんなぁ。   | 少年|何が。   | イカ|大変、遺憾に思っております。ってな!   | 少年|・・・帰る。   | イカ|いかんのよ!   | 少年|のよ?   | イカ|・・・いかんでござる。   | 少年|何で。   | イカ|だってここ・・・山でござるよ。   | 少年|いいじゃん。別に。   | イカ|イカを還すのに、山って。   | 少年|いいじゃん。山イカ。   | イカ|生イカ?   | 少年|山イカ。   | イカ|ジャマイカ?   | 少年|山イカ。   | イカ|静岡。   | 少年|山オカ・・・! 帰る(去ろうとする)!   | イカ|待ってよ!   | 少年|てかさっきから、イカって言ってない!   | イカ|いいか、イカって言うの面倒くさいんだよ。   | 少年|ぶっちゃけたぞ、このイカ。   | イカ|イカジョーク!   | 少年|は?   | イカ|父イカと、母イカと、息子イカの三人で仲良く晩御飯。   | 少年|イッカ団欒?   | イカ|イカジョーク第二段!   | 少年|あってたのかよ。   | イカ|息子イカがヤクザに。   | 少年|急展開だな。   | イカ|足を洗わせるのに一苦労。   | 少年|十本あるからね。   | イカ|イカジョーク第三弾!   | 少年|おいっ!   | イカ|臭っせぇ臭っせぇイカ息子、最近モテるみたいです。   | 少年|これが本当のヤリイカってか。   | イカ|おい! 言うなよ!   | 少年|何で最後下ネタなんだよ。   | イカ|最後じゃないぞ! まだまだあるぞイカジョーク!   | 少年|まだあんのかよぉ。   | イカ|あたっりめーだろ! あたりめだけにな!   | 少年|・・・それは面白いけど普通に。   | イカ|マジで?   | 少年|でも帰る!   | イカ|イカジョーク!   | 少年|まだ、あんの?!   | イカ|お主、本当にいいのか?   | 少年|・・・何が。   | イカ|イカみたいに、まっちろーい体してた引きこもりのお主が、   |今みたいなイカした男になって、胃下垂にもならずに元気に暮らしておる。   |それって、どのイカのお陰だと思っておるのだ?   | 少年|・・・。   | イカ|拙者が高橋さんの犬をしつけて、お主に向かって吠えないようにしたでござる。   |学校の先生に頭下げて、まぁ頭っていうか、これ正しくは耳っていうんでござるが。   |耳下げて、学校に行かせてもらっている。   |おじいさまの投げ縄漁の仕事も、拙者が潮の眼を読んで漁獲量が大幅アップ!   |お父さんの会社のライバル社の倉庫でこの触手を活かして   | 少年|おい   | イカ|この触手で、こう、企業秘密を奪ってきたり!   | 少年|お前そんなことしてたのか!   | イカ|あと高橋さんの奥さんとこの触手でこうやらしい、   | 少年|おい!!!   | イカ|・・・イカである拙者も、いかばかりか、心配なんでござるよ。   |いかに冷たい仕打ちを食らおうと、一介のイカでしかない拙者に、   |いかようなご恩を賜れば、イささカながらの、   | 少年|それ微妙にイカじゃねえな。   | イカ|イささカながらの!   | 少年|ごめんなさい。   | イカ|いささかながらの、恩返しなるものもあるでござるよ。   | 少年|・・・僕は確かに、引きこもりだった。   |父さんが、ホーマックでお前を買ってこなかったら、   |俺はずーっと、ヤドカリみたいに引きこもってたろうな。   |お前のお陰で、学校に行けるようになったし、友達もできた。   |お前がやってきてから、にぎやかになったよ。   |怒りっぱなしの父さんも、穏やかになったし。   |母さんも小言を言わなくなった。   |姉ちゃんもなんだか優しくなって、笑顔が増えた気がする。   |じいちゃんが死んでも、明るい心でいられるのは、お前のおかげかな。   | イカ|そう言われると、胸が熱いでござるよ。   | 少年|なんでお前そんないろんな所押さえて、ああ、そっか。お前心臓五つあるのか。   | イカ|熱いでござるよ。   | 少年|全部?   | イカ|全部でござる。   | 少年|お前がいなかったら、今頃僕・・・   |イカ以下のいかにもいかしてないいかん大人に、なってたかもなぁ。   | イカ|お主、今、イカしてるでござるよ!   | 少年|お前コレからどうすんだよ。   | イカ|山はちょっと・・・。山イカは嫌でござるなぁ・・・。   |まぁ適当にイカダでも作って、適当なところで錨を下ろして。   |いかものにも縛られない悠々自適なイカライフを堪能するでござるよ。   |いかばかりかの、お金もあるでござるし。   | 少年|え、金あんの?   | イカ|保険金が少々。   | 少年|保険金? なんのだよ。   | イカ|おじいさまの。   | 少年|じいちゃんの?! 何でお前が? ・・・まて、お前、まさか!   | イカ|高橋さんの奥さんに、ちょっとたぶらかされてでござるな。   | 少年|てめぇがじいちゃん殺したのかよ!   | イカ|大変に遺憾に思っているでござる。   | 少年|このクサレイカが!   | イカ|やめるでござるよ! そんなホタルイカみたいに目を光らせて。   | 少年|イカソーメンにしてやる!   | イカ|おおっと、拙者は心臓が五つあるでござるよ!   |それに、いいんでござるか?   |父さん、倒産しちゃうでござるよ!   | 少年|は・・・?   | イカ|盗んだのはライバル社の企業秘密だけじゃないってことでござる。   | 少年|父さんの会社の企業秘密も・・・?   | イカ|どちらの会社の命運も、拙者が握っているのでござる。   |まぁ握っているっていうか、吸盤に張り付いてるでござるよ。   | 少年|そんな・・・。   | イカ|完璧なタイミングだったでござる。   |葬式でバタついてる今なら、逃がす口実になるでござるなぁ。   |まぁどの道、ペットのイカ一人逃げたところで、誰も気にしないでござる。   | 少年|一人じゃなくて一杯だ!   | イカ|関係ないでござるよ! 水死事故に見せかけた完全犯罪、企業秘密の漏洩、   |真昼間から人妻との触手プレイ、人間であろうが、イカであろうが、   |それを同時にやってのけるなんて、警察には考えもつかないでござろうなぁ。   |たしかに、猫の手も借りたいほど忙しかったでござるよ。   |結果的には猫の手なんか必要なかったでござる。十本でちゃんと足りたでござるよ。   | 少年|警察に連絡してやる。   | イカ|出来るのでござるか。この間までヤドカリみたいに引きこもってたお主が。   |人間大にでっかくなったイカが、完全犯罪を起こした、と。   |そんな御伽噺を、警察に、できるのでござるか。   | 少年|くそっ!   | イカ|さらばでござる。   | 少年|お前は最低だ! 今まで会ったどの人間よりも最低な、   |人間以下の、最低の軟体動物だ。   | イカ|人間以下では無いでござる。   | 少年|じゃあなんなんだ!   | イカ|イカ人間で、ござる。   | 少年|・・・イカれてる!!!   |   |   |...end   |